2007.08.23 アメリカとインドの核開発協力
2007.08.23 The America-India nuclear deal: Worse will come
アメリカとインドがさらなる核開発合意へ
昨年、アメリカがインドに対して原子力開発への協力を申し出たことは大きな話題となりました。アメリカ国内の核不拡散法に抵触するのではないかなど様々な議論が出ましたが、今月に入ってアメリカはさらにインドとの協力を進めた模様です。また、日本やオーストラリアもその傾向に乗っています。
インドとの協力は中国に対する牽制という意味が大きいため、中国は対抗策としてパキスタンと核開発を進めようとしており、新たな冷戦の様相を呈しています。
以下、Leadersの記事を翻訳します。
【日本語訳】
インド政府が先月アメリカと結んだ、平和利用のための原子力技術協力の協定は、議会での混乱とパキスタンの潜在的な脅威はあったものの、既に成功を収めていると言ってよい。日本の安倍晋三首相は先週デリーにて、インドとの「戦略的パートナーシップ」を確認した。日本は10年以上もインドの核を批判してきたにもかかわらず、である。同時にオーストラリアでは、NPTに批准していない国にはウランを売らないという方針があったにもかかわらず、アメリカの戦略を見習い、インドにウランを売ることを決定した。インドはNPTに批准しておらず、将来的にもする見込みはない。
インドは1974年の「平和的」核実験の後、核モラトリアムを設定していたが、それも破棄しようとしている。しかし核の取引を再開するためには、まずIAEAに従って、原子力施設は「文民統制」のものであることの承認を受ける必要がある。しかしそのためには、45か国から成るNSG(核供給グループ)からインドを例外として認めてもらう必要がある。NSGは、インドのように国際基準を全核施設に適用することを拒否するような国と取引をすることを禁じているからだ。
北朝鮮やイランのように、NPTに批准してからその合意に違反した国とは異なり、インドはパキスタンやイスラエルと同様に、NPTにそもそも批准していない。つまりインドの核は完全に合法的なものである。誰もインドが核を手放すとは思っていないので、ブッシュ政権は「インドを実質的に核保有5か国と同様の責任を持たせることの方が良い」と考えた。それにより、核不拡散の現実的なメリットは得られる、としている。
本誌はこの件について長く批判してきた。数多くある抜け穴の中でも、インドはあからさまに核保有5か国の責任も訓練も実行しようとしていない。5か国とは異なり、核実験禁止条約に批准してもいない。ウランとプルトニウムを核爆弾用に生産することもやめてはいない。
アメリカがインドに対して例外を適用したことにはリスクが伴う。核不拡散の柱を根本的に揺るがしてしまうかもしれないのだ。インドはIAEAに対して、「どの施設を査察してよいか」だけでなく、「どの時期に査察してよいか」まで指定しようとしている。このようなインドの低落により、NPTに批准しているブラジルのような国(ウランの濃縮を始めている)に対してIAEAが厳しい査察を受け入れるよう求めることが難しくなるだろう。この「厳しい査察」はNPT批准国に対しては標準的でも、インドにだけ緩い、ということになるのだ。
同様に、NSGも核貿易に関して厳しい基準を設けているが(ただしふざけた例外はいくつかある)昨年の会合ではロシアにその規則を破らせることを許してしまった。その理由は安全性としているが、明らかに虚偽であり、インドにウランを売るための口実でしかない。中国はアメリカがインドと手を組んだことを快く思っておらず、対抗策としてパキスタンとの核開発の協力の道を探っている。インドの核と競合するためだ。
日本はNPTに批准しており、核保有5か国以外の中で最も原子力開発能力が高い国であるが、イランに対しては日本と同様の態度を取るように求めてきた。つまりIAEA基準を遵守することである。しかしインドに対する態度は別のメッセージを送ってしまっている;「最初に核を手に入れたものが勝つ」。このようにルールを曲げてしまっていくと、安全保障のための反核体制が揺らいでしまう。NSGやIAEAを成す政府は、自らの信念に自信を持ち、さらなる瓦解を防がなければならない。
【解説】
日本語訳の上で難しいのは、英語では常に nuclearでも、日本語では「核」と「原子力」の二通りの訳があり得ることです。前者は攻撃利用、後者は平和利用というニュアンスがありますが、英語ではどちらもの意味を包括している場合が多いため、訳分けが難しいところがあります。
核モラトリアム(本文中では nuclear quarantine核隔離と表現)とは、インドはCTBTに署名しない代わりに、CTBT発効まで核実験を行わないとする自主規制のことです。
また、本文中には「5か国は核実験禁止条約に批准している」とありますが、アメリカはCTBTには批准しておらず、PTBT(部分的核実験禁止条約)のみであり、各国から批判されている状態なので、あまり褒められたものでもありません。
ちなみに、本文中に This newspaperとあるのは The Economistのことです。雑誌の形態はしていますが一応 The Economistは新聞を自称していることからこのような表現になっています。
【英語表現】
・ joist:(建築用語)根太、梁
・ hubbub:騒動
・ take a cue from:~を見習う、ヒントを得る
・ give a conditional go-ahead:条件付きで承認する
・ take on :何かを始める
・ laxity:ゆるみ、だらしなさ
・ antic:ふざけた態度
・ scrupulously:几帳面に