【日本語訳】
6歳までに、ヒトの脳は大人と同じくらいの大きさになる。そう聞くと大抵の大人は驚くだろう。子供は大人ほどの頭の回転が速くないからだ(たとえあなたのかわいい天使が天才だったとしても)。子供は事実の記憶には長けているものの、その事実に関連したエピソードを思い出すのは得意ではない。しかも、長丁場を強いられる課題には耐えられない。おやつの時間まで15分待つこともままならない。
しかし成長するにつれ、脳も変化する。大人の大きさになる前に、「刈り込み」と呼ばれる現象が始まる。特定の灰白質は特定の器官と繋がる。神経細胞は、電線がプラスチックでカバーされるのと同じように、ミエリン鞘に覆われていき、白質を形成する。ミエリン鞘は電流がもれるのを防ぐ。灰白質が縮小する間も、白質は成長していく。ワシントン大学のBradley Schlaggarらは、以上の現象が、脳は遠くの場所に対しても少ない神経結合で繋がることができる理由だと考えた。
Dr Schlaggar らはグラフ理論で脳を理解することに長けている。グラフ理論は電力網やインターネットの解析にも使われている。彼はボランティアの被験者に、「ウソをつくこと」と「何でもいいので願い事をすること」をしてもらい、脳の活動を調べた。脳のどの部分が同時に活発化するかを調べるためである。もし活動が統計的な閾値を越えれば、グラフに点をプロットしていく。
このアプローチにより、Schlaggar博士は「なぜ大人は、子供なら他の事に気が散るほどの長い課題に耐えられるのか」のヒントを得た。脳における、「二つの領域」ではなく「二つのネットワーク」が長期課題への集中を可能にしているというものである。
Peterson博士らは学生の被験者に対して10の課題をさせ、脳の39の領域が活動的であることをつきとめた。課題としては、たとえば規則性のある音を聞かせ、次の音はいつ来るかを予測させたり、2つの言葉の属性が同じであればボタンを押したりなどの課題である。博士らは、39の領域の中で7つの領域は、一定の法則に則って課題をこなすときに活発であることを発見した。課題を間違えて、他の法則を模索するときには、他の11の領域が活動的になった。Peterson博士は、最初の7つを「帯状回―弁蓋部ネットワーク」、次の11つを「前頭頭頂ネットワーク」と名づけた。
Schlaggar博士は、この2つのネットワークはどのように繋がっているのかに疑問を持った。そこで博士は10代までの子供を集め、脳をスキャンしながら「何でも好きなことを考えてください」と言った。先の実験と同様の39の領域の血流を調べ、どの領域が同期しているかを観察した。
博士が発見したことショッキングだった。7歳から9歳の49人の子供については、2つのネットワークは一つのウェブとして機能していた。43人の思春期の子供については、これらのネットワークのつながりは一部切り取られていた。47人の大人では、2つの領域ははっきりと異なった領域として活動していた。しかも、子供の「帯状回―弁蓋部ネットワーク(耐久性)」は「前頭頭頂ネットワーク(適応性)」の内部に閉じ込められていた。博士らは、子供がビスケットを待てないのはこのせいだとした。これらの結果は、最近のPNAS (Proceedings of the National Academy of Science) に発表されたものである。
しかし、子供が何かを記憶するとき、その文脈を思い出すこともできないのはなぜだろうか。これはMITの Noa Ofen博士の問いであり、その答えは今週の Nature Neuroscienceオンライン版に発表されている。8歳から24歳の被験者を集め、250種類の写真を覚えてもらうように指示した。その写真は、キッチンだったりイスラエルの一風景だったりと様々だ。
Ofen博士は、被験者がどれだけ写真を思い出せるかをテストした。250種類の写真とは異なる写真も混ぜて、被験者に「この写真は見たことがありますか?」と聞いた。もしも「ある」と答えたら、「その写真に関連するストーリーを思い出せますか?」と聞いた。結果は、「年齢と、写真の正しい認識とは関係がない」ということだった。しかし、年齢が上がるにつれて、記憶を形成する過程での経験を思い出せる割合が高くなった。
記憶の形成に必要な内側頭葉は、いかなる写真を見たときにも発火する。18歳以上の被験者が、文脈つきで記憶を形成する際には、側前頭前野が活動的になることもわかった。これらの発見は、「ヒトは成長するにしたがって どのように記憶を形成するのか」を説明する足がかりになると考えている。
Ofen博士は、上記2つの領域について、白質と灰白質の神経細胞の数を概算した。その結果、より多くのことを思い出せば、それだけ脳に「美白効果」があるということがわかった。
【英語表現】
・gray matter:灰白質。神経細胞のうち、細胞体(細胞の本体部分)が多い。
・white matter:白質。神経細胞のうち、神経線維(神経細胞の”手”)の部分。白色の脂質で覆われているため、白く見える。
・in unison:声をそろえて
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