作家・翻訳家の山形浩生氏は The Economist の特徴を次のように語ります。
(1)経済だけでなく政治・科学・文化・書評などの記事も奇跡的なレベル
(2)日本のどの雑誌と比べても質が高い
(3)他の国際氏と比べても格段に質が高い
(4)ただし値段も高い
(5)ジョークやトリビアもおもしろい
以下に氏による全文を引用します。
The Economist はすばらしい雑誌で、こんな奇跡のような水準が保てるだけの編集部の力量と、それを支えられるだけの読者層があるというのはうらやましいなどという段階をはるかに超えた、呆然と天を仰ぐしかないというような、そんな雑誌。
タイトルだけ見て一般に経済誌だと思われているけれど、きちんとした経済分析をベースにしつつ、政治面もちゃんと分析しているし、科学記事も優秀。
また経済も、単なる上がった下がったの後追い記事だけでなく、経済理論の話も詳しく論じていて勉強になります。
文化記事や書評欄も先鋭的ではないが現代において必須の教養をきっちりカバー。
さらに、冗談記事の充実ぶりもものすごい。
確か狂牛病だか口蹄疫だかがヨーロッパで流行ってパニックになり、いまの日本の狂牛病騒ぎみたいなヒステリーが起きていたとき「狂牛病なんかよりはるかに恐ろしい、致死率 100 パーセントのおそるべき症状が発見された。 生命という恐ろしい病気があって、これに罹患すると人に限らずあらゆる有機物すべてはやがて死を迎え、そこから逃れるすべはないことが判明したのである!」(だから十年に全国で一人出るか二人出るかなんていうどうでもいいものに大騒ぎしなさんな)とかいう記事をまじめくさってのっけていたのには笑った。
一方で、トリビアっぽい話にも目配りがきいてる。
統一協会がパラグアイで何をしようと、別にどうでもいいんだけど、ちょっと笑えるよね。
ふりかえって日本で経済誌というと、『東洋経済』や『エコノミスト』ごときが経済誌だと思われているけれど、これらにまともなマクロ経済分析が載ることは皆無(ミクロの常識すら怪しげな記事も多数)で、単なる企業ゴシップをあれこれ書くのが「経済」だと思っているらしいのは情けないを通り越して絶望もの。
後者では The Economist の記事をいくつか翻訳して載せるコラムもあるけれど、その選択眼(まして翻訳)は信じがたいほどの低レベル。
経済だけに限って言えば、『経済セミナー』とかあるけれど、とても一般向けの雑誌ではないし、理論だけだもんね。
これは編集執筆者の力量の問題であると共に、読者の問題でもある。
たとえば貧困者の増減議論で、この雑誌はある統計データの細かい見方に基づいた分析を記事にできる。
読者は当然(当然!)そこで問題になっている差とは何かを理解できる、という前提がある。
日本では、こんな理解なんか期待できるわけがない。
ぼくが雑誌の編集担当なら、やっぱりむずかしすぎると言って切るだろうなあ。
地球温暖化において、これまで謎とされていた人工衛星データの不一致が云々なんていう記事を日本で読もうと思ったら、『日経サイエンス』くらいまでこないと絶望。
まあそれを言うなら、日本以外でも The Economist はレベルが高すぎる、というのはある。
他にあるかと見回してみれば、その次に出てくるのは Businessweek だの Time みたいなチンコロ雑誌だもの。
これでも日本の一般向け経済誌に比べればまだマシだが、俗情への結託ぶりがあまりに露骨で見るに堪えないことも多い。
しばらく前は、一応 Far Eastern Economic Review が両者の間にあったんだが (Nuri Vittachi の "Traveller's Tale" がまた読みたいよう)、編集部が香港から北京に移って月刊誌になって以来、こちらは見るも無惨な凋落ぶり。
無惨すぎるのでもう見ません。
あと個別分野の専門誌以外で見る価値のあるものといえば、 Jane's Intelligence Review くらい (まあ JIR は一般誌と呼ぶにはあまりにちょっとマニアックすぎるが)。
ま、愚痴っててもしょうがないので、ときどき目についたおもしろい記事をセレクト。
お目にかけましょ。
日本で買うとやたらに高いのが欠点で(一冊 900 円超ってなんだよ! 他の先進国並に 600 円にしろ!)、なるべく途上国で買うようにしているのだけれど、でも (いやだからこそ) 定期購読する価値あるでよー。